
こんにちわ、合同会社トビガスマル代表社員の廣瀬です。
岡山県新見市。人口2万5000人のこの地方都市がいま、中国SNS「小紅書(RED)」を活用し、インバウンド誘致の新たなモデルづくりに挑んでいます。
この事業は、私や弊社役員が所属している新見商工会議所青年部(新見YEG)が提案し、令和7年度の新見市「公募型まちづくり事業」として採択されました。
※このページのサムネイル画像は、本事業をプレゼンテーションした際の様子です。
日本各地で観光戦略の見直しが進む中、なぜ“いま中国”? なぜ“小紅書”?
そして、なぜ地方都市・新見市がこの戦略で先行するのか?
その理由と可能性を、あらためて掘り下げてみましょう。
目次
なぜ“いま中国”なのか?──5つの現実的な理由
「中国はインバウンドとしてもう古い」――そんな声を聞くこともあります。
しかし、私たちはあえて、いま再び中国市場にフォーカスしています。
なぜなら、そこには“数字”と“行動”という2つの現実があるからです。
以下に、その理由を5つの観点からご説明します。
1. 圧倒的な市場規模
コロナ前、訪日外国人のうち中国人観光客は全体の約3割を占め、消費額は1人あたり20万円を超えていました。 インバウンド消費全体の約35%を担っていたというデータもあり、「来る数」も「使う額」も圧倒的だったのです。
円安が続く今、再び日本への旅行熱が高まっていることは明らかで、地方にとっては再注目すべき市場です。
2. FIT(個人旅行)化による地方志向の高まり
かつて主流だった団体ツアーは減少し、今のトレンドは“静かに深く楽しむ旅”。 中国人旅行者の中でも、「日本の田舎を歩きたい」「地元の人と話したい」というニーズが高まっています。
新見市のような中山間地域は、自然・温泉・食・文化が揃った“ちょうどいい田舎”として、ぴったりのロケーションです。
3. 情報源の変化=SNS検索が主流
中国ではGoogleやInstagramが使えない代わりに、旅行の検索は“小紅書(RED)”が主流です。 実際、「旅行先は小紅書で探す」というのがZ世代の常識になっており、Googleに載っていてもREDにない=存在しないと言っても過言ではありません。
地方都市が中国人旅行者に“発見”されるには、RED対策は必須なのです。
4. マナーやリテラシーの高い観光客が増えている
かつては「うるさい」「マナーが悪い」といったイメージが先行していた時期もありましたが、それはもう過去の話。 現在の主な訪日層は、SNSを駆使し、日本文化に敬意を払う“体験志向の旅行者”です。
実際、私たちがこれまで接したREDインフルエンサーの方々も、礼儀正しく、感受性が高く、新見の魅力を丁寧に発信してくれました。
5. 地方の情報が“まだ”ほとんどない
東京・京都・大阪などのメジャー観光地と違い、地方都市の情報はRED上でもほとんど発信されていないのが現状です。
だからこそ、いまREDに発信すれば:
- 目立ちやすい
- 拡散されやすい
- 先行者メリットが得られる
この“今だけ開かれているブルーオーシャン”に、私たちはチャレンジしています。
小紅書(RED)とは?──中国のZ世代が頼る“体験型SNS”
小紅書(Xiaohongshu/RED)は、中国のZ世代〜30代を中心に圧倒的な支持を集めている体験型SNSです。
もともとはコスメやファッションのレビューからスタートしましたが、いまでは旅行、グルメ、学び、ライフスタイル全般にまで拡大。 日本で例えるなら、Instagram+アメブロ+楽天レビューを足したような存在感を持っています。
“検索エンジン”としてのRED
GoogleやInstagramが使えない中国において、REDは検索行動の中心となっています。 旅行先を探す際にも、「◯◯県 観光」「日本 穴場」などで検索し、実際に訪れた人の写真・体験レビューを参考にして行き先を決めます。
つまり、地方都市が中国人観光客に“見つけてもらう”には、RED上に投稿があるかどうかが決定的な分かれ目になります。
写真+ストーリー+信頼性=刺さる
小紅書の特徴は、
- 高品質な写真・動画(ビジュアル重視)
- リアルな体験談・レビュー(文章も長め)
- 発信者の共感性・信頼性(プロフィール・タグの活用)
だからこそ、ただ観光地を紹介するだけではなく、“そこに行った理由”“心が動いた瞬間”が語られている投稿が伸びやすい傾向にあります。
新見のような“物語のある地域”とは、REDとの相性が非常に良いのです。
観光から関係づくりへ
小紅書は単なる観光誘致ツールではなく、地域との“関係人口”を育てる場としても活用できます。
「また来たい」「あの人に会いたい」「今度は違う季節に」—— そんな気持ちを持った読者が、次の旅行先に選んでくれるかもしれません。
だからこそ、“点の観光”ではなく“線と面でつながる発信”を意識することが、今後の鍵になります。
新見YEGの挑戦──「公募型まちづくり事業」として本格始動
この戦略的な取り組みを企画・実行しているのが、私も所属する新見商工会議所青年部(新見YEG)です。
令和7年度、新見市の「公募型まちづくり事業」として採択され、現在行政・事業者・専門家が連携したプロジェクトとして本格的に動き出しています。
事業の3本柱
新見YEGが展開する小紅書プロジェクトは、以下の3つの柱で構成されています:
① 学ぶ:小紅書セミナーの開催
まずは地域の事業者自身がREDという媒体を理解し、発信の主役となるための学びを提供。
- REDの仕組みや投稿フォーマットの基本
- ハッシュタグ戦略やアルゴリズムの傾向
- 「映える」ではなく「共感される」投稿のつくり方
現場では、中国SNS運用の専門家による講義+実践ワークを組み合わせたセミナーを開催。既に多くの関心を集めています。
② 実践する:中国インフルエンサーの招聘と“共創型発信”
セミナーで学んだあとは、地域側の発信もスタート。 同時に、新見YEGでは、中国本土および在日中国人の中でも小紅書(RED)上で実際に影響力を持つインフルエンサー(KOL/KOC)を新見に招き、観光・体験・食・人とのふれあいを通じて、「リアルで心動く発信」をしてもらいます。
彼らの投稿は、RED上で数千〜数万単位の閲覧・保存・コメントを生み出し、新見という名前が中国のZ世代に“発見される”きっかけになっています。
さらに重要なのは、インフルエンサーの視点で新見の新たな魅力が“再発見”されることです。
地元の私たちにとって“当たり前”に見えていた風景や食材が、彼らの目には新鮮でユニークに映る
その価値をREDで可視化してもらうことで、私たち自身の発信の視点も広がっていきます。
つまり、これは単なる「宣伝依頼」ではなく、外からの気づきを取り込み、内からの発信にも活かしていく“共創型の地域PR”だと考えています。
③ 広げる:ライブコマースと越境ECへ
私たちのゴールは「観光誘致」だけではありません。 インバウンドと地元産品の販路拡大を一体化した“観光×商流モデル”に育てることです。
今後は、REDで認知された新見の特産品を、ライブコマースや越境ECを通じて販路展開することも視野に入れています。
たとえば、現地で飲んだお茶や食べた和菓子を、「帰国後にも買える」しくみを整えることで、観光地との関係性が“一度きり”で終わらない設計を目指しています。
こうした流れを通して、新見YEGは“自分たちの町の価値”を、世界のリアルな消費者とつなげていく仕組みづくりに挑戦しています。
なぜ地方にとって“ブルーオーシャン”なのか?
新見YEGが中国インバウンド戦略において、小紅書(RED)を選んだ最大の理由は、 「地方の情報がまだほとんど発信されていない」という現実です。
実際、REDを検索してみればわかります。 東京、京都、大阪といったメジャー都市には情報があふれている一方で、地方都市――特に中山間地域の観光情報は極端に少ないのです。
この状況は、裏を返せば“誰もいない市場が、いま目の前に開かれている”ということ。 すでに競合がひしめくGoogleやInstagramとは違い、RED上ではまだ、地方発の情報が“目立ちやすく、広がりやすい”状態にあります。
REDでの地方発信が持つ3つの可能性
- 1. 投稿されれば目立つ: 地方名やスポット名がまだ登録・発信されていないため、1つの投稿でも検索上位に表示されやすい。
- 2. 共感を得れば拡散される: 小紅書では「保存」や「コメント」が重視されるため、体験価値があれば自然に反応が広がる。
- 3. 成功すれば“モデル”になる: 他地域や他YEGの参考事例となり、全国の地方に向けたロールモデルとして波及できる。
“いまだけ”のチャンスを逃さない
私たちが今取り組んでいるのは、いわば“RED上の検索結果を先取りしている状態”です。
この先、地方の自治体や企業がこぞってREDに参入してくるのは時間の問題。 だからこそ、「誰もやっていない今」こそが、ブルーオーシャンに飛び込む最大のチャンスだと捉えています。
地方の情報は“遅れている”のではなく、“これからの伸びしろ”である。 その先駆けとなることに、新見YEGとしての意義とやりがいを感じています。
よくある誤解:中国インバウンドは質が悪い?
このテーマに触れるとき、私はいつも「市民感情」と「変化の現実」の両方を見つめるようにしています。
かつて団体旅行ブームの時代、「マナーが悪い」「騒がしい」「ルールを守らない」といったイメージが中国人観光客に対して語られていたのは事実です。 新見のような静かな地方都市では、こうしたイメージに対して不安や抵抗感を抱く市民の気持ちも、私はよく理解できます。
しかし現在、その状況は大きく変化しています。
個人化・感度の高い旅行者が主流に
今の中国人観光客は、団体旅行よりも自分の好みに合わせた個人旅行(FIT)を選ぶ人が中心です。
特に小紅書(RED)を通じて訪日する層は、
- 日本文化への敬意があり、リピーター率も高い
- SNSでの発信を前提としており、マナーや清潔感に敏感
- 地域での体験や“人とのふれあい”を丁寧に楽しむ
つまり、むしろ地方にとって相性の良いお客様である可能性が高いのです。
市民との“共存”を目指す
私たち新見YEGは、この事業を「とにかく数を呼び込む観光戦略」だとは考えていません。
むしろ、
- 地域の人々と丁寧に交流する
- 自然や伝統文化に感動して帰っていく
- 静かに写真を撮り、SNSで発信する
そんな“地域のリズムを壊さずに関わってくれる旅行者”との接点を、REDを通じて築いていこうという取り組みです。
最初に市民の理解を得ること。訪れる人も、迎える人も気持ちよく関われること。 それが、持続可能なインバウンドの第一歩だと私たちは考えています。
最後に:地方から始める、次の観光戦略
全国の自治体や団体で「インバウンドを強化します」「SNSを活用します」といった言葉はよく耳にします。
ですが実際には、アカウントを作っただけで満足してしまい、戦略も学びもないまま発信が止まっている――そんなケースも少なくありません。
特に中国向けとなると、文化・言語・プラットフォームが異なる分、習熟と継続がなければ成果につながりにくいのが現実です。
だからこそ、私たち新見YEGは、「学ぶ→実践→仕組みにする」というステップを意識した事業設計を行います。
“仕掛けただけで終わらない”。それが私たちの強みであり、今回の事業の中核です。
観光戦略から、地域ブランド戦略へ
この取り組みの意義は、単に観光客を呼ぶことではありません。 私たちはむしろ、
- “新見らしさ”に価値を感じてくれる層を知る
- その視点を地域の発信や商品開発にも活かす
- 観光を入口に、交流・移住・販路拡大へと展開する
という地域ブランドづくりの基盤として、小紅書を位置づけています。
受け入れ側の体制づくりもセットで
もちろん、仕掛けた以上は「来てもらって終わり」ではありません。
これから私たちは地域の事業者が“安心して中国インバウンドを迎えられる環境整備”にも取り組まなければならないと考えています。
たとえば:
- 多言語対応のPOPやメニュー表
- 決済手段の多様化(WeChat Pay・Alipayなど)
- マナーの違いや文化的背景を理解する接客研修
- 小紅書を使った集客や口コミ促進のサポート
こうしたサポート体制を“地域全体で取り組む”ことで、 旅行者も安心、事業者も歓迎できる“相思相愛な観光地”が育っていくはずです。
小さな地方都市だからこそ、できることがあります。 そして、地方が世界とダイレクトにつながれる時代だからこそ、今、やる意味がある。
新見YEGの挑戦が、同じように悩みながら地域づくりに取り組んでいる方々のヒントや刺激になれば幸いです。

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