こんにちは。合同会社トビガスマル代表の廣瀬です。
今回の「トビガスマルの道具箱」は、
YAMAHA HPH-MT8
です。
映像編集をしていると、
「映像がきれいか」
だけではなく、
音をどう判断するか
という場面が何度もあります。
ナレーションが少しこもっている。
BGMが大きすぎる。
小さなノイズが残っている。
左右のバランスがおかしい。
低音が出すぎている。
編集室では気づかなかったのに、
スマートフォンで再生すると声が聞きにくい。
こうした問題を見つけるために使うのが、
モニタースピーカーやモニターヘッドホンです。
HPH-MT8は、
音楽を気持ちよく聴くためというより、「この音で納品して大丈夫か」を判断するためのヘッドホン
として考えると分かりやすい製品です。
今回もスペック表を読むだけではなく、
明日の現場に、持っていくか。
という基準で考えてみます。
結論|HPH-MT8は「音を楽しむ」より「音を見る」ためのヘッドホン
HPH-MT8を一言で表すなら、
です。
YAMAHA自身もHPH-MT8について、
原音のニュアンス、音色、音像定位の細かな変化を確認するための
スタジオモニターヘッドホンとして設計しています。
映像編集では、
- 声が聞き取りやすいか
- BGMがナレーションを邪魔していないか
- ノイズが残っていないか
- 左右の定位がおかしくないか
- 低域が膨らみすぎていないか
- 編集点にクリックノイズがないか
などを判断します。
だから、
「低音が気持ちいい」
「映画が迫力満点」
ということよりも、
問題がある場所に気づけること
の方が重要です。
その意味で、
HPH-MT8は映像制作とも相性のいいヘッドホンだと思います。
YAMAHA HPH-MT8の基本仕様
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 形式 | 密閉型オーバーイヤー |
| ドライバー | 45mm ダイナミック / CCAWボイスコイル |
| 再生周波数特性 | 15Hz〜28kHz |
| インピーダンス | 37Ω |
| 出力音圧レベル | 102dB SPL/mW |
| 最大入力 | 1,600mW |
| 重量 | 350g(ケーブル・プラグ除く) |
| ケーブル | 3.0mストレート / 1.2mコイル、ともに脱着式 |
| 端子 | 3.5mmステレオミニ / 6.3mm変換アダプター付属 |
| その他 | 片耳モニター対応、キャリングポーチ付属 |
スペックだけを見ると、
特別派手な機能が付いているヘッドホンではありません。
Bluetoothもありません。
ノイズキャンセリングもありません。
マイクもありません。
その代わり、
これがモニターヘッドホンです。
映像編集に、なぜモニターヘッドホンが必要なのか
映像編集では、
画面ばかり見てしまいます。
カット。
色。
テロップ。
エフェクト。
でも、
映像作品の印象をかなり左右するのが音です。
映像が多少荒くても、音が聞きやすければ見られる
逆に、
映像がきれいでも、
- 声が聞こえない
- ノイズがうるさい
- BGMが大きい
- 音量が突然変わる
動画はかなり見づらくなります。
特に企業動画や周年動画では、
「何を話しているか」
が重要です。
だから音声編集では、
「気持ちよく聞けるか」だけではなく、
言葉がきちんと届いているか
を確認します。
HPH-MT8の一番いいところ|細かな問題を探しやすい
モニターヘッドホンに私が求めたいのは、
粗探しができること。
です。
例えばナレーションを編集していると、
- 口の「ペチャッ」という音
- 息
- エアコン
- 服が擦れた音
- 椅子の軋み
- 編集点のクリック
など、
小さな音が気になることがあります。
普通に音楽を聴いているだけなら、
気づかなくても困りません。
でも納品する動画なら、
気づける方がいい。
YAMAHAはHPH-MT8について、
中高域の精確性・解像度と、
ローエンドまで輪郭を保った低域を特徴として挙げています。
つまり、
ということです。
ナレーション編集との相性がいい
トビガスマルの映像では、
ナレーションやインタビューを使うことがあります。
このとき、
ナレーションの編集で確認したいのは、
- 低音がこもっていないか
- 声が細すぎないか
- サ行が刺さっていないか
- BGMに埋もれていないか
- ノイズ処理をかけすぎていないか
などです。
ここで重要なのは、
「いい声に聞こえるか」だけではありません。
処理しすぎれば、
一見きれいでも不自然な声になります。
EQ。
コンプレッサー。
ノイズリダクション。
ディエッサー。
などを触るとき、
変化が分かる再生環境
が必要です。
宅録ナレーションそのものについては、
マイク選びから録音環境までこちらの記事でまとめています。
2025.03.30
結論|宅録ナレーションは「マイクを買う前」に部屋を確認する 最初に結論です。 宅録ナレーションの音を良くしたいなら、 マイク選びより先に、自分の部屋の音を確認してください。 マイクは声だけを拾っているわけではありません。 部屋にある、 ...
低音は「出るか」より「何が起きているか」を見る
ヘッドホンレビューでは、
「低音が迫力ある」
という評価をよく見ます。
でも、
映像編集では少し意味が違います。
例えば、
- BGMのキックが大きすぎる
- 低い環境音が残っている
- 風ノイズがある
- 男性ナレーションの低域が膨らんでいる
こうした問題を判断したい。
つまり、
です。
ここは、
リスニング用ヘッドホンとモニターヘッドホンの考え方が違うところです。
密閉型なので収録現場でも使いやすい
HPH-MT8は、
密閉型オーバーイヤー
です。
耳全体をイヤーパッドで覆います。
映像編集だけでなく、
収録現場で使う場合にも密閉型にはメリットがあります。
例えばナレーション収録で、
ヘッドホンから漏れたBGMやガイド音声を、
マイクが拾うのは避けたいところです。
密閉型なら、
開放型と比べて音漏れを抑えやすい。
また、
周囲の音が入りにくいため、
収録している音へ集中しやすくなります。
YAMAHAもHPH-MT8について、
高い遮音性を特徴として挙げています。
片耳モニターができるのは現場で便利
HPH-MT8は、
イヤーカップを動かして
片耳モニター
ができます。
これはスタジオ以外でも便利です。
例えばライブ配信やイベント現場。
片方の耳では、
ミキサーから返ってくる音
を聞く。
もう片方では、
会場で実際に鳴っている音
を聞く。
という使い方ができます。
映像制作の現場では、
スタッフから話しかけられる。
司会の声を直接聞く。
会場のPAを確認する。
そういう場面では、
片耳モニターができることは意外と重要です。
3mストレートと1.2mコイル、2本付属するのが実務的
HPH-MT8には、
- 3.0mのストレートケーブル
- 1.2mのコイルケーブル
が付属します。
どちらも脱着式です。
編集机ならコイルケーブル
机の周りで使うなら、
伸び縮みするコイルケーブルは取り回しやすい。
長いケーブルが床へ余りにくくなります。
収録・現場なら3mストレート
ミキサーやオーディオインターフェースから少し離れて使う場合は、
3mの方が便利です。
こういう部分は地味ですが、
仕事道具としてはかなり大切
です。
37Ωなので、極端に鳴らしにくいヘッドホンではない
HPH-MT8のインピーダンスは37Ωです。
非常に高インピーダンスのスタジオヘッドホンと比べれば、
比較的扱いやすい数字です。
ただし、
「音が出る」と「正しくモニターできる」は別。
です。
映像編集やナレーション編集に使うなら、
きちんとしたオーディオインターフェースのヘッドホン出力から聞く方が安心です。
トビガスマルでは、
オーディオインターフェースとしてMOTU M4も使っています。
2024.10.09
結論:MOTU M4は〈配信・宅録〉の両立に強い4in/4out。フルカラーの大きいメーターと公式ドライバのループバックが決め手。 配信(OBS/Zoom)のPC音+マイクのミックスがドライバ内で完結します(Mac/Win)。 向いている人:配信+DAW録音、ゲスト収録、BG...
弱点1|350g。軽いヘッドホンではない
HPH-MT8の重量は、
ケーブルを除いて350gです。
これは無視できません。
装着感についてYAMAHAは、
3次元アームピボット構造や大型イヤーパッドによって、
長時間作業にも配慮した設計としています。
ただし、
頭の形。
側圧の感じ方。
メガネ。
作業時間。
によっては、
重さを感じる人もいると思います。
8時間ずっと付けっぱなしにするなら、
重量は確認しておきたいところです。
弱点2|移動用ヘッドホンとしては大きい
オーバーイヤー型なので、
当然ながらコンパクトなイヤホンより場所を取ります。
キャリングポーチは付属しますが、
- カメラ
- レンズ
- PC
- オーディオインターフェース
- ケーブル
などを持って現場へ行く映像制作者にとって、
350g+大きなイヤーカップはそれなりの荷物です。
つまり、
「念のため持っていく」には少し大きい。
でも、
音を確認する仕事があるなら持っていく。
そういう道具です。
弱点3|HPH-MT8だけで最終判断しない
これはHPH-MT8の欠点というより、
モニタリング全般の話です。
どんなに良いヘッドホンでも、
一つの再生環境だけで納品判断を終わらせない。
私はこの考え方が大切だと思います。
例えば、
- モニターヘッドホン
- モニタースピーカー
- 普通のイヤホン
- パソコンのスピーカー
- スマートフォン
でも確認します。
なぜなら、
視聴者の大半はHPH-MT8で動画を見ないからです。
と考える方がいいと思います。
映像編集ではこう使いたい
STEP1|素材確認
収録した音に、
- ノイズ
- 音割れ
- マイク擦れ
- 左右の異常
がないか確認します。
STEP2|ナレーション・インタビューを整える
声のEQ。
ノイズ処理。
コンプレッション。
音量。
を確認します。
人の声をEQで整える方法はこちらで詳しく紹介しています。
2025.05.30
本記事では、私たちトビガスマルが日々の制作現場で行っているEQ設定の基本とコツを、初心者にもわかりやすくまとめました。 「人の声」をテーマに、音の輪郭を磨き、“聴きやすく、伝わる音”へと整える方法をお届けします。 声の印象は、動画の印象。 音が整えば、世界の見え方が変わります。 ...
STEP3|BGMとのバランスを見る
BGMだけで聞けば、
気持ちいい音量でも、
ナレーションと重なると邪魔になることがあります。
特に、
人の声と同じ中域に音が多い楽曲は注意します。
STEP4|左右の定位を見る
音が意図せず片側へ寄っていないか。
ステレオ素材とモノラル素材が混在していないか。
を確認します。
STEP5|小さなノイズを探す
編集点。
クロスフェード。
無音部分。
曲の終わり。
などを細かく聞きます。
STEP6|別の再生環境で最終確認
HPH-MT8だけでは終わらせません。
スマートフォンや普通のイヤホンでも聞き、
実際の視聴環境でも破綻しないか
を確認します。
ナレーション収録では「録る側」にも重要
宅録記事ではマイクについて詳しく書きましたが、
録音は、
マイクで録るだけでは終わりません。
その場で確認する必要があります。
例えば、
- 声が割れていないか
- ノイズが入っていないか
- ポップノイズがないか
- マイクから離れすぎていないか
- テイクごとに音量が変わっていないか
です。
録音終了後に、
「ノイズが入っていました」
では遅い。
宅録ナレーションの環境づくりについてはこちらでまとめています。
2025.03.30
結論|宅録ナレーションは「マイクを買う前」に部屋を確認する 最初に結論です。 宅録ナレーションの音を良くしたいなら、 マイク選びより先に、自分の部屋の音を確認してください。 マイクは声だけを拾っているわけではありません。 部屋にある、 ...
HPH-MT8が向いている人
- 映像編集を仕事にしている
- ナレーション・インタビューを編集する
- 音の細かな問題を確認したい
- ライブ配信や音響現場でも使いたい
- 密閉型モニターヘッドホンが必要
- 片耳モニターを使う
- ワイヤレスより音の確認を優先する
逆に、HPH-MT8を選ばなくてもいい人
- Bluetooth接続が必要
- ノイズキャンセリングが欲しい
- 移動中の音楽鑑賞が中心
- とにかく軽いヘッドホンが欲しい
- コンパクトさを最優先したい
- 迫力ある低音を楽しむことが主目的
こういう用途なら、
別のヘッドホンやイヤホンの方が合う可能性があります。
「モニターヘッドホン=フラット」だけで選ばない
モニターヘッドホンについて調べると、
「フラットな音」
という言葉がよく出てきます。
でも、
私はそれだけで選ぶのは難しいと思っています。
重要なのは、
- 問題に気づけるか
- 長時間使えるか
- 自分の基準を作れるか
- 仕事のスピードが上がるか
です。
どんなモニターヘッドホンにも、
個性があります。
だから、
長く使い、
「このヘッドホンでこう聞こえたら、他ではどう聞こえるか」
を覚える。
これが仕事道具として大切だと思います。
トビガスマルの道具箱|HPH-MT8評価
| 評価項目 | 評価 |
|---|---|
| 現場投入度 | ★★★★☆ |
| 音の判断しやすさ | ★★★★★ |
| 解像感 | ★★★★★ |
| 遮音性 | ★★★★☆ |
| 装着感 | ★★★★☆ |
| 持ち運び | ★★★☆☆ |
| 耐久性 | ★★★★★ |
| 価格納得度 | ★★★★☆ |
| 仕事改善度 | ★★★★★ |
仕事改善度★★★★★|「音が良くなった」ではなく「判断しやすくなる」
道具箱で一番重視しているのが、
仕事改善度
です。
HPH-MT8を評価するとしたら、
ここが一番高いと思います。
理由は、
「音楽が楽しくなった」
ではなく、
です。
ナレーションのEQ。
BGMの音量。
ノイズ。
定位。
低域。
一つずつ判断する。
映像編集では、
こうした小さな判断を何十回、何百回と繰り返します。
そこを助けてくれる機材には、
仕事道具として価値があります。
最終判定|持っていく
ただし、
移動中に音楽を楽しむためではありません。
HPH-MT8を持っていく理由は、
です。
350g。
大きい。
Bluetoothなし。
ノイズキャンセリングなし。
便利機能だけで見れば、
もっと今っぽいヘッドホンはいくらでもあります。
でも、
映像編集。
ナレーション。
音声収録。
ライブ配信。
で必要なのは、
「音を楽しくする機能」ではなく、「音を判断するための基準」
です。
YAMAHAがHPH-MT8に掲げている、
「すべての音を、見るために」
という考え方。
映像制作の仕事で使うヘッドホンとして考えると、
かなり本質を突いた言葉だと思います。
まとめ|編集で必要なのは「いい音」ではなく「判断できる音」
HPH-MT8は、
派手な機能を持ったヘッドホンではありません。
でも、
- ナレーションを整える
- BGMとのバランスを見る
- ノイズを探す
- 定位を確認する
- 収録音をその場で確認する
という仕事では、
非常に分かりやすい存在です。
映像制作で音を扱うとき、
HPH-MT8は、
そのための道具として考えたいヘッドホンです。
明日の現場に、持っていくか。
持っていく。
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